ナギ ナリコのENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

紅ゆずるの星組、虹色の魅力が花開く@宝塚星組『ANOTHER WORLD』

先週末で大千穐楽を迎えました、星組公演のレビューをお届けします。

すでにこの公演については各記事で初舞台生、組子それぞれについてはアップしておりますのでご参考までに。

今回は芝居の全体についてお話し出来ればと思います。

 

RAKUGO MUSICAL
『ANOTHER WORLD』

作・演出/谷 正純

落語噺「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」「朝友(あさとも)」「死ぬなら、今」など死後の世界を舞台とした作品をちりばめ、“この世”と“あの世”を行き来して繰り広げる純愛冒険物語。個性豊かな星組メンバーによる、抱腹絶倒の落語ミュージカルをお届け致します。
大坂の両替商「誉田(こんだ)屋」の若旦那・康次郎が目覚めると、そこは“あの世”……康次郎は高津神社の境内で大坂の菓子屋「松月堂」の嬢(いと)さん・お澄に一目惚れ、だが何処の嬢さんか判らぬままに恋患い、それはお澄も同様……恋患いで“あの世”へとやって来た二人。せめて“あの世”で結ばれようと、互いに愛しい人を探しての“あの世”旅が始まった。
艱難辛苦の末に巡り逢った二人。だがあろう事か、閻魔大王がお澄に横恋慕、康次郎ひとりに地獄行きの沙汰を下すのだった。果たして康次郎とお澄の恋の顛末は……。

星組公演 『ANOTHER WORLD』『Killer Rouge(キラー ルージュ)』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

 

演出家谷正純の舞台づくり

作・演出の谷正純先生は大ベテランの先生ですが、近年ではかの植田紳爾先生から引き継いだ『ベルサイユのばら』の演出、『メリーウィドウ』『こうもり』等オペレッタが原作作品、他『CAPTAIN NEMO』等小説を原作とした作品等、幅広く手掛けていらっしゃいます。作品の出来としては、好評を博したものもありますし、なかなか評価しづらいものもありました。『ANOTHER WORLD』は落語が原作ですが、これまで『くわらんか』等名作も生まれており、「谷正純先生のテッパン作品」とも言えるのではないでしょうか。

谷先生の舞台づくりとして印象的なのは、その美しさ。直近の星組大劇場作品『こうもり』も、作品の評価こそそこまで高い作品ではなかったと思いますが、宝塚ならではの美しく、華やかで夢夢しい舞台でした。組子からのエピソードでは、なかなかコワイ先生、という印象もありますが、「宝塚らしい舞台づくり」を大切になさっている演出家だと思います。

もう一つ谷先生にはファンの間で物騒な二つ名がありまして、通称「皆殺しの谷」。谷先生の作品は「人がよく死ぬ」んですよね…。古くは、真琴つばささん主演の『エルドラード』、直近では『CAPTAIN NEMO』等。「死」や「生命」について、独自のこだわりがある方だと思います。そしてそれを受けて今回SNSで話題になったのは「皆殺しの谷がそもそも皆殺しにかかっている」という大喜利

さてさて、そんな谷先生の舞台づくり、今回はどうだったでしょうか…?

 

華やかな舞台で繰り広げられる美しき人情喜劇

「ANOTHER WORLD」はその名の通り「もうひとつの世界」=あの世が舞台。

チョンパではじまる華やかな群舞「さくら夢幻」から、つづく「幽名境の花園」では蓮華の精達が美しく歌い、流水の男達が舞います。ファンタジックで美しい場面から、康次郎が花びらの船に乗り登場。「あの世」に来てしまった自分を嘆き、幼馴染の喜六(七海ひろき)、茶屋娘の初音(有沙瞳)、船頭杢兵衛(天寿光希)、米屋の徳三郎(礼真琴)とその一行を引き連れ、愛しの嬢(いと)さん、お澄(綺咲愛里)を探し、あの世でドタバタ珍道中を繰り広げます。六道の辻で出会う、観光案内所貧乏神のびんちゃん(同じ華形ひかるが演じた「くわらんか」でも登場)、美人座のお頭阿漕(夢妃杏瑠)、その木戸銭番小五郎(十碧れいや)等個性的なキャラクター達との出会いも描かれます。

今回の舞台も、内容はドタバタ喜劇ですが、谷先生の美意識が出た美しい舞台でした幕開けの桜から、蓮の花を思わせるパステルトーンや六堂の辻でのビビッドな色使い、所々和紙の模様を使っている舞台美術(装置、新宮有紀)もとても綺麗。お衣裳も宣材はかなり個性的な着物でしたが、舞台映えする良い衣装。(衣装加藤真美、衣装監修任田幾英)

演出面では落語の「お約束」を使い、谷先生の師匠植田先生をネタにしたり、「冥土歌劇団」のスター(美稀千種)の登場やラインダンス、艶治の正体が虞美人等、この作品に「タカラヅカ」へのパロディを盛り込んでいるのもヅカファンとしては一興。

「恋わずらいで死ぬ」という、変わった事情で「あの世」にやってきた康次郎とお澄の二人。この純粋な二人の恋物語を、傍から見ると少し滑稽に、劇中劇「崇徳院心中」では初音と徳三郎の歌に乗せて人形振りを使って見せるなど、終始とてもコミカルにユーモアたっぷりに描かれているのが良い。恋とは、熱心でマジメな当事者のふたりは気づかないけれど、傍から見ると、滑稽でおかしなものですから。

中盤過ぎから、康次郎の「あの世」での審判が行われることになり、閻魔大王をはじめ、右大臣左大臣、阿修羅や天女、大勢の赤鬼青鬼達が一斉に登場。一同大騒ぎの審判後、一度は離れ離れになってしまう康次郎とお澄。三途の婆、艶治(音波みのり)の機転でなんとか逃げおおせ、クライマックス、源頼光、桃太郎まで巻き込み、なんでもありの閻魔大王側との大合戦になって行く流れまで、非常にテンポが良い。おかしみのある台詞で観客を爆笑の渦に巻き込みながらも、最終的にはすべて「愛」と「生きていればこそ」と「義理人情」にすべて持っていく、この勢いの良さと潔さ。

少々乱暴だけど、愛すべきキャラクターたちがつむぐ物語にホロっとしてしまいます。「そりゃそりゃそりゃありがたや そりゃそりゃそりゃなんまいだ」と歌って帰りたくなる。人間、誰しも生きていればこそだ、という明快な主張に爽快感感じる舞台でした。楽曲もどれも楽しくて素敵。作曲は大ベテランの𠮷﨑憲治さん。

t.co

 

喜劇役者紅ゆずると星組の組子たち

紅ゆずるさんは、宝塚ではちょっと珍しい、コミカルな芝居が大変上手な方。小回り、目配りがきき、ちょっとした相手の反応や客席の反応をキャッチして、柔軟に芝居を調整できる。本来男役としてはやや高めで癖のある声も、今回の芝居ではすべて彼女演じる康次郎の愛嬌になっていて、とても魅力的に仕上がっていました。この役には紅ゆずるさんという不世出のスターのあたたかみやおかしさ、魅力が全てつまっている。さすがベテラン座付き作家の仕事であり、「宝塚オリジナル作品かくあるべし!」という内容でした。

粋で男くさい江戸っ子の礼真琴さん、紅さんと芝居の相性がいい七海ひろきさん、ちゃきちゃき茶屋娘の有沙瞳さん、三途の橋渡し杢兵衛に芝居巧者の天寿光希さん、他前述のキャラクターに、専科から汝鳥伶さん、華形ひかるさん等、星組の組子、出演者がすべて適材適所で役柄にハマっていて、生き生きと舞台上で動いている。

アドリブはほとんどないのに、芝居のテンポ感や台詞の応酬に終始おかしみがあり、繰り返し観ても飽くことがない。良い意味でコロコロ芝居の色あいが変わるんですよ。まさに虹色。組ファンやリピーターでも、初見の方にも楽しめる満足度の高い一作です。

しいて言えば、スター登用については適材適所でしたが、閻魔大王の審判(後半45分位?)~クライマックスの大決戦での登場がメインとなる役は、登板の時間がそもそも遅く短いですし、赤鬼青鬼たちの十把一絡げの誰が誰だかわからない本格的なメイクは「スターを見に来るタカラヅカ」としてどうなんだ、というのはあると思います。新進の瀬央ゆりあでさえ、赤鬼として目立つのはひと場面でしたからね。

しかし、この作品は一方でとてもタカラヅカらしい団体芸」で見せている作品でもあると思うのです。タカラヅカの大きな舞台、70~80名いる出演者がいるからこそ映える、華やかで豪華な見せ場がきちんと用意されている。

そこで組子ひとりひとりが生き生き(あの世ですが)楽しそうに演じているので一観客として、組ファンとして、とても楽しめました。谷先生の集大成、ともいえる良作だと思います。

NHKの収録もされているそうで、今後のBSでの放送も楽しみですね。

 

演出家の谷正純先生は

星組あの世/キラル(ANOTHER WORLD/Killer Rouge)で組子を愛でる。とりあえず「あの世編」。

でも書きましたが、今回で定年、と言う噂が。

ラストのチーンという鈴と鈴鉢の音も洒落がきいてました。

Twitterで谷先生の宝塚座付き演出家として自身への弔いをこめているのでは、というフォロワーさんがいて、なるほど~!と感激しました、粋ですよね。皆殺しの谷が自らの演出家人生の幕を下ろす、という。

 

以上のように想像以上に楽しく、充実の内容でした!こんなオリジナル芝居なら何度でも通えちゃうんですよね。宝塚ならではの、今の星組の座組みでこその舞台。

ではいつものように長くなってしまったのでショー、キラールージュはまた改めてアップします。それでは今回はこのあたりで。

ナギナリコ

追記:ショーについて書きました!

www.nagi-narico.com

 

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