ナギ ナリコのENTREVUE BLOG

「ナギ」ですが時にはあらぶり「エンタメ」「すきなこと」について書く。演劇・宝塚・映画・本、アート・旅行等娯楽、趣味の話とたまにの真面目コラム。

紅ゆずる、星組トップスターとしての試練の二作@宝塚星組『ベルリン、わが愛/Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』

先日、菊田一夫演劇賞の選考結果が発表され、2017年に上演された『ベルリン、わが愛』の作・演出の原田諒さんが菊田一夫演劇賞を受賞されました。今回は昨年の公演になりますが、タイムリーなこの公演をレビューしたいと思います。ナギナリコです。

 

ミュージカル
『ベルリン、わが愛』
作・演出/原田 諒
サイレント映画からトーキーへと移り変わる頃──。1920年代から30年代にかけて、ハリウッドと並ぶ映画の都として栄華を誇ったドイツ・ベルリンにも、ナチスが暗い影を落とし始めていた。そんな中、新しい娯楽作品を模索する男達は、ミュージカル映画こそ大衆が求めるものだと確信し、その実現へ向けて邁進していた。無名の踊り子を抜擢し撮影された映画は大成功を収める。しかし、プロパガンダとして映画を利用しようとするナチスの圧力は強まる一方だった。理想と現実の狭間で苦悩しながら、映画を愛した彼らが描いたシナリオとは…。
激動期のベルリンを舞台に、「映画」を愛した人間たちの姿を、運命的なラブロマンスを織り交ぜながらドラマティックに描き出すミュージカル。

タカラヅカレビュー90周年
『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』
作・演出/酒井 澄夫
90周年を迎えたタカラヅカレビューの伝統を紡ぐレビュー作品。世界巡りの形式で展開するバラエティに富んだ場面に、きらめく花の様に多彩な輝きを放つ紅ゆずるを中心とした星組メンバーの魅力を一杯詰め込んだ、豪華絢爛なレビューをお届け致します。  

星組宝塚大劇場公演 ミュージカル『ベルリン、わが愛』/タカラヅカレビュー90周年『Bouquet de TAKARAZUKA』 [Blu-ray]

 

星組公演 『ベルリン、わが愛』『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

幕開けすぐ、サイレント映画メトロポリス」の試写会のシーンから始まります。

星組の組子登場人物としてずらっと、ひな壇に座り、一斉に「メトロポリス」を鑑賞し、興奮したり、驚いたり、寝てしまったり、色々なリアクションを取る。次々と歌う。その幕開けのシーンが星組の組ファンにとっては目が足りなくてワクワクしますし、一気に「シネマ」(映画)の世界観へ観客を引き込むようになっていて、とても効果的でした。

舞台はドイツ、サイレント映画からトーキー映画への転換の時代、映画好きな青年・テオ(紅ゆずる)はメトロポリスの失敗を受け、新作はトーキー映画を撮らせてくれ、とプロデューサーのカウフマン(七海ひろき)に直訴、黒人女性レビュースター、ジョセフィン・ベーカー(夏樹れい)に出演交渉に向かいます。ベーカーには断られてしまいますが、アンサンブルで出演していたレーニ・リーフェンシュタール(音波みのり)をヒロインに抜擢、恋人役に歌が上手い売れない若手俳優ロルフ・シェレンベルク(瀬央ゆりあ)、脚本は作家で友人のエーリッヒ・ケストナー(礼真琴)に依頼。レーニのヒロインぶりはさんざんでしたが、脇役で使ったジル・クライン(綺咲愛里)の可憐さが話題になり、テオの取った「忘れじの恋」は成功をおさめます。しかし時代はナチスが勢力を増している時。ヨーゼフ・ゲッベルス(凪七瑠海)がジル・クラインに興味を持ち近づき…実業家、アルフレート・フーゲンベルク(壱城あずさ)の存在もあり…と全体の流れはこんな風。

で、ストーリーの落ちをネタバレしますが、結局、ジルは実はユダヤ人で、その後ジルをヒロインとし撮った二作目、「ビスマルクよ永遠に」は、ゲッベルスの妨害に合い、撮り終らず、テオとジルはゲッベルスナチスから逃げおおせ、ベルリンに思いを寄せながら列車に乗り込み、終幕…という感じ。

原田諒先生がやりたかったのは、劇中の台詞「暗闇を照らすのは、ただ愛のみ」に象徴されるような、激動の、暗い時代でも「ささやかでも夢や希望」を描くこと、そこにテオとジルのラブロマンスや仲間達との絆も加えて…というようなことだろうと思います。ビスマルクよ永遠に」も要はタイトルは政府に媚びているけれども、ドイツの現状を風刺した作品なんですよね?

が、問題なのは「そういう風に観客は受け止められない作品になっている」ことです。

レーニではなく、ジルが抜擢されたのは、テオが特別目をかけちゃったから、レーニには監督として演技指導もアドバイスもしていない。ゲッベルスは専科からわざわざ凪七瑠海さんを呼んでいますが、ともすれば「ただの権力を傘に新進女優に迫るストーカー」、脚本の腕を見込まれたエーリッヒは、ラストで芝居の脚本の台詞をテオに勝手に変えられます。そしてテオは映画をほったらかし、強い絆で結ばれているはずの仲間達をこれから益々悲惨な状況になるドイツ・ベルリンに残し、自分だけがジルと逃げる。

そういう風にわたしには見えましたし、思えました。音楽や、舞台美術、演出は凝った面もあり見応えもありましたが、脚本の粗さ、杜撰さを覆すほどではない。いくらトップスター、トップ娘役、星組の組子が頑張っても、この元々の脚本の不出来さを補えるほどのものではない。芝居巧者の天寿光希さんや、退団された壱城あずささん、夏樹れいさんの名演が光っても、です。また、ナチスという日本と関わりも深いドイツという国で、今でも重要な歴史的トピックを取り上げるのなら、あまりにも歴史に対して誠意がなく思慮が浅いと思いました。「歴史の記憶」とは重いものです。わざわざ実在の人物を多数キャラクターとして登場させるなら、もっと丁寧に、構成を練って描いてほしかった。ナチスドイツが色々な側面を持つ、あの時代の恐るべき存在であったことは現代ではよく知られていることと思います。(宝塚で新進の作・演出家でお忙しいとは思いますが…こんなフォローいれるのもね…)

このあたりの時代、演劇では非常によく扱われる題材で、

例えば三谷幸喜さんの「国民の映画」 国民の映画 | PARCO STAGE

劇団チョコレートケーキ「熱狂」 熱狂 | 劇団チョコレートケーキ

等、名作・傑作も多いです。映画でも「ライフ・イズ・ビューティフル」等名作映画が沢山ありますよね。

それに比べ、いくら「宝塚である」ということを考慮しても、幼稚すぎやしませんでしょうか。構成も難ありですし、キャラクターがそもそも魅力的に描けていない。これがかの「菊田一夫演劇賞」を受賞した劇作家・演出家の舞台なのだから、正直に言いますと、がっかりです。こういうよく扱われる時代、題材の作品をつくるのは非常にチャレンジングだと思います。どうしても過去の傑作・名作と比較されるからです。そして残念ながら、そのチャレンジは失敗に終わりました。集客はそこそこしているようでしたけど、それでも最近の宝塚作品の中では販売から開幕後も客足が伸び悩んだでしょうし、ファンの間でも、客席でも、SNS上でも、とにかくあまり評判は良くない。私自身も評価はできません。

原田諒さんは、演出手腕やスタッフの選定、舞台美術や音楽、衣装など、ヴィジュアルの作りこみが素晴らしく、「見た目には」とても美しく見応えがある舞台を作ることが出来る演出家だと思います。ただ、劇作家としては、そもそも基本的なことが描けないですし、主演が圧倒的なスター性や実力を持っている俳優であったり(大地真央轟悠、望海風斗)、原作や人物のエピソードがきちんとある(ふるあめりかに袖はぬらさじ、ドクトル・ジバゴ、For the peple、ニジンスキー等)とその弱い面を補えるのですが、今回はそのどの点でも失敗していたと思います。

原田諒の手堅い芝居作り@宝塚星組赤坂アクトシアター公演『ドクトル・ジバコ』 - 「すきなこと」探しの旅に出る。ナギ ナリコのエンタメScrap!

若手でも既に数々の舞台のキャリアがあるのに、脚本のキャラクターも構成もダメなのは本当致命的です。

このような出来の作品を描くのなら、今後宝塚で「オリジナル」の作品は一切描かず、原作付きか演出業に専念、ショー作家に転向するかして頂かないと、一宝塚ファンとしては劇場に通うのが辛すぎますし演目発表で原田諒さん、とくると「観に行く回数減らそうかな…」とか、「今回は見送ろう」などとコアファンに評判悪い演出家、と思われかねないと思います。わたしは星組をよく見ますし、出演者は色々と芝居で工夫しようとしているのは伝わりましたけど、それでも辛かった。とにかくもっと作劇能力を磨いて、登板されることを切に望みます。すでに今年の花組公演も決まっていますし。

花組公演 『MESSIAH(メサイア) −異聞・天草四郎−』『BEAUTIFUL GARDEN −百花繚乱−』 | 宝塚歌劇公式ホームページ

 

『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』は久しぶりに大ベテラン演出家、酒井澄夫先生が登板。まず、スモーキーなパステルカラーの衣装や舞台の色彩の数々が眼を引き、最近のショー作家のそれとは違う、ゆったりとしたテンポ感や各場面が長めの場面構成で、全体的にクラシック。往年のショー作家のキャリアを感じさせる内容となっています。ただ、そのことが逆に現代のショーとのテンポ感の違いを生んでいて、目まぐるしい転換や派手な舞台装置、テンポの速い音楽が主の最近のショーに慣れていると、少しだれてしまう内容だったかもしれません。紅ゆずるさんはお芝居心がある方で、歌も踊りも得意ではない。相手役の綺咲愛里さんも、特にどれが強い、点がないトップ娘役です。二人とも現代的でヴィジュアルが綺麗なんですが、そういうトップコンビを、どう演出するかは座付き作家の腕の見せ所だと思います。が、どうもスパニッシュ場面での紅さんの長い長い銀橋での歌と言い、いまいちその辺りが出来ていないような。あとこれは芝居でも思ったことですが、相手役の綺咲愛里さんは、可愛いし、歌も踊りもそれなりにこなしているのだけれど、もう少し押し出しや表情、内面的な感情を込めた芝居をして欲しいかな。「見た目がかわいいだけのお人形」では、観ている方はつまらないものです。

良かったのは、「花夢幻」での三組のデュエットダンス。黒薔薇、白薔薇、赤薔薇の衣装がとても素敵で、和物の歌をアレンジして、というのも新鮮でとても美しかったです。最近はショーのクライマックスにトップコンビのデュエットダンスからパレード、というのが定石化していますけれど、以前は三組のデュエダンというのもよくあったそうで、こういう場面も素敵だな、と思わせてくれました。エトワールは宙組に組替えした天彩峰里さん。美しい声を響かせてくれました。

退団する壱城あずさ、愛水せれな、夏樹れいの三名には芝居でもショーでもそれなりの場面がありましたし、中日劇場公演がとても良く、ショーはわたしの中で記憶に残るものとなりました。

nagi-narico.hatenablog.com

ただ、全体としては、初めて宝塚を観るであろう観客が多い行楽シーズンに、このような質の二本立てで集客に少し苦戦する、というのは、紅ゆずる・綺咲愛里コンビの星組にとっては試練・試金石だったろうな…と思います。こういう演目でもかなり集客力を保てるのが宝塚の強みなんですけどね。わたしはタカラジェンヌ宝塚歌劇はもっと可能性に満ちており、レベルの高いものを見せられる、と思っているので、今回の記事はかなり長い上に辛口になりましたけれど、星組の今後にまた期待したいと思います…

 

えんぶの橘涼香さんの記事がとても良かったです↓

宝塚ジャーナル : 紅ゆずる&綺咲愛里コンビ初のオリジナル作品二本立てで華やぐ 宝塚星組公演『ベルリン、わが愛』『Bouquet de TAKARAZUKA』

 

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