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真摯で誠実な傑作社会派作品@新国立劇場『赤道の下のマクベス』

こんにちは。今日は3月25日に初台新国立劇場での公演が閉幕しました佳作・赤道の下のマクベスをご紹介します。とても素晴らしく、全国公演が四月に兵庫、愛知、福岡であるようです。お時間のある方、とってもオススメです。では以下、公演情報とレビューです。

 

《赤道の下のマクベス全国公演情報》

 日時:4月5日(木)18:30 /6日(金) 13:00
 会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
 日時:4月11日(水)18:30
 会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
 日時:4月15日(日)14:00
 会場:北九州芸術劇場 中劇場
 

1947年夏、シンガポールチャンギ刑務所。

死刑囚が収容される監獄・Pホールは、演劇にあこがれ、ぼろぼろになるまでシェイクスピアの『マクベス』を読んでいた朴南星(パク・ナムソン)、戦犯となった自分の身を嘆いてはめそめそ泣く李文平(イ・ムンピョン)、一度無罪で釈放されたにも関わらず、再び捕まり二度目の死刑判決を受けるはめになった金春吉(キム・チュンギル)など朝鮮人の元捕虜監視員と、元日本軍人の山形や黒田、小西など、複雑なメンバーで構成されていた。

BC級戦犯である彼らは、わずかばかりの食料に腹をすかし、時には看守からのリンチを受け、肉体的にも精神的にも熾烈極まる日々を送っていた。

ただただ死刑執行を待つ日々......そして、ついにその日が訪れた時......。

 

池内博之 浅野雅博 尾上寛之 丸山厚人 平田 満 木津誠之 チョウ ヨンホ 岩男海史 中西良介

 赤道の下のマクベス | 新国立劇場 演劇

 

鄭義信さんの作品は「焼肉ドラゴン」しか生で観ていませんが、戯曲はいくつか読んでいます。焼肉ドラゴンは今夏映画化するそうですね。キャストもなかなか豪華!

yakinikudragon.com

今回の戯曲は悲劇喜劇3月号に掲載されています。

悲劇喜劇 2018年 03 月号

いわゆるA級戦犯については多少見知っている方も多いと思いますが、BC級戦犯、植民地化した朝鮮の人びと(元日本人)が日本人と一緒に収容所に入れられたということを、どれだけの日本人が知っているでしょうか。わたしもなんとなく知識として知ってはいた気もしますが、きちんと学んだりしたことはありません。

正面に、大きな木製の絞首刑台があり、左右に三つずつ鉄の扉、下手奥に重々しい白っぽい鉄の扉があります。幕開け、収容所の所員達が3名、それぞれの部屋から5人の囚人が出てきます。

少し緊迫感のある所員と囚人たちのやり取りから、5人の日常的なやり取りがはじまります。池内博之演じる南星が尾上寛之演じる役(役名すみません…)への構い方など、なかなか二人は仲がいいのがうかがえます。悲惨な状況でありながら、収容所での朗らかな日常を描いている。ところが、途中、朝鮮人の収容者が一人増え、そこから大きく物語が転換します。そこからおよそ30分ごとに戯曲の中で大きな転換があり、クライマックスの展開。作者の巧さがうかがえました。

あとからやってきた朝鮮人(元日本人)は収容されていた日本人の軍人に恨みをもっています。一度解放されたのに、不幸なことにまた捕えられ、この収容所に来てしまった。彼の登場からそれぞれの辛い過去のエピソード等がさしこまれます。このエピソードの数々が…なかなか見ている方も辛い。芝居している方も相当ハードでしょうね…!ただ、日常性というのもずっと隣り合わせであって、朝食のビスケットの話や、故郷の家族の話、食事に唐辛子が入っていて喜ぶ朝鮮出身の三人等。ところどころほろっ、とくるのです。

タイトルのマクベスは芝居好きな南星が余興でかって上演した、というエピソードから、ちょっとした台詞や場面が差し込まれます。

マクベス夫人の手を洗う場面等、ところどころマクベスを思わせる場面もあります。

そしてついに処刑を宣告される日が来る。はじめは───、という感じ。

この後からネタバレします。4月全国公演がありますのでご注意を。

この後の場面から、ラストシーンがすばらしく、命のきらめきや、仲間との絆を感じられ、泣けます。パンフを買い忘れたため役名を失念してしまったのですが、池内博之演じる南星と平田満演じる日本人捕虜のやりとりが素晴らしい。同士であり、親子のようであり、とても感動的で、美しい場面になっています。そしてふと考えてみれば残酷で非情な場面でもあります。この後、処刑シーンを見せるのは南星だけで、残りの二人は全く見せなかったのも良かったと思いました。そして後から来たひとりは減刑され収容所を去る、残り二人はどうなるかわからない、でも囲碁を楽しむ───、この非日常的な場面から日常性を取り戻す場面のあたたかさ。残された二人がどうなったかわからない、生き残ったのか、やはり処刑されてしまったのか。けれど、そういうどんなに非情で、残酷で辛い毎日の中でも、人はユーモアを言ったり、ささやかな楽しみを見つける。かの悪名高いアウシュヴィッツでさえそうでした。

本が素晴らしく、演出も、舞台美術も役者の演技もとてもハイレベルで非常に見応えある作品でした。こうも文句のつけようのない演劇作品もなかなかないものです。

池内博之の天性の華、肉体美や「ちょっと学があるけど気取らない、気のいいあんちゃん」みたいなキャラクターがとってもハマってましたし、とにかくそれぞれの役に色んな見せ場があるんですが、平田満の達者さがすごすぎて感動しました…。どんな声色でも台詞は明瞭だし、見せるところはきちんと見せてくる、その巧さ。

他もみんな印象的でちょっと書き切れないんですが、こういう会話劇は役者の力量がなければ成立しないですよね。台詞量も多いし、心理的にも肉体的にもめちゃくちゃハードだと思います。あとちょい役でしたが、収容所の所員の二人と所長クラス?の人もうまいな~と。絞首台で所長役のひげを付けた男が下の男たちを見て「にやっ」と笑うんですね。目が見えないくらい帽子を深くかぶっている、口ひげもつけているし、客席から距離がある。なのにあやしく「こっ、この人いま笑った…!(怖)」とわかる。そこもとても印象的でした。

出来るならもう一度みて色々反芻してみたい位。

急ぎの用事があったので、さっと劇場をあとにしましたが、心からスタオペしたかったです!

…さて最近やはり思うのは、日本人は今後もきちんと戦争体験に向き合っていかなければならないということです。今後、戦争経験者がいなくなる時代が必ず来る。

朝鮮や台湾の植民地化もですけど、色々な歴史、色々な視点、側面がある。良かったとか悪かったとかは簡単には言えないけれど、ひとつ言えるのは「戦争は二度と起こしてはならない」です。そんな思いを一層強くした作品でした。

 

 

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